第36話『みんなの王子様』

■『コメットさん☆』の演劇性


イマシュンが王子様候補から外れ、コメットさん
にとっても、メテオさんにとっても、もう関係な
くなったはずなのに、コメットさんはイマシュン
のいつもと違った「輝き」が気になり、メテオさ
んは彼に恋心を抱き始めつつある。その違いがは
っきり見えてきます。

つまり、ケースケ、イマシュン、コメットさんの
三人では、よくある三角関係には結局、なりませ
んでした。コメットさんは色恋沙汰から一番遠い
ところにいる人だし(それゆえに「恋力」を手に
入れてもそれはあくまでラバボーの「恋」であっ
て、コメットさんの外側に位置するものでした)、
イマシュンもケースケもコメットさんのことを、
自分を励ましてくれる「天使みたいな存在」とし
て見ています。

ただ、どちらかというとケースケのほうは彼女を
人間として見ているがゆえに(くじけそうになっ
たときに現れるコメットさんと普段の彼女が一致
してないようですから)多少恋心も芽生えて逆に
反発したりしています。一方でイマシュンはコメ
ットさんを完全に天使的存在として見ていて、イ
マシュンのメンタリティもどこかコメットさんに
似ているだけに恋愛関係というよりは、コメット
さんとツヨシくん、ネネちゃんの関係に近いかも
しれません。

三角関係になるのは、むしろメテオさんがそこに
入ってくる今回からです。ここから、コメットさ
んが避けてきた、色恋沙汰の展開になります。そ
してそのことで、メテオさんの「恋力」という形
で、メテオさんは自分の「王女メンタリティ」か
らやっと解放されます。


イマシュンのことが気になり、会いに行くコメッ
トさん。ライブ会場の外で会話する最初のカット
は、11話「バトンの力」にもあったカットの秋
バージョンです。左に街灯があり、右から飛行機
が秋の雲をバックに左に向けて入ってきます。11
話のカットの飛行機はイマシュンを象徴していま
した。そして今回の「飛行機」は帰国するイマシ
ュンのお母さんを象徴しているのかもしれません。

母親も有名人だったことでマスコミに騒がれ、歌
うことの根本動機が揺らぐイマシュン。自分はか
つて相手にされなかった母親の気を引きたいがた
めに、その代償行為として歌ってきたのか。ここ
に今回のサブタイの「みんなの王子様」が掛かっ
てきます。

イマシュンの母親、アイコキミハラにイマシュン
の気持ちを伝えようとするコメットさん。あとの
ライブ会場のイス演出とのつながり(アイコの仕
事場でのイス→ライブ会場のイス)も上手いので
すが、コメットさんと会話する時になかなか目線
を合わせようとしないアイコキミハラの描写も深
いです。今回のコンテ/演出の佐士原さんの力で
しょう。そしてそれを次の会話が補完しています。


「お願いします」
「ああ、そこもっと、黒を強調した色使いにね」
「瞬さんがんばって歌って、みんなが応援してく
れてます。みんなの王子様みたいに」
「ええ、そのようね。それならそれで、いいんじ
ゃないかしら」
「でもほんとうに聴いてほしいのはお母さまだっ
て。だからみんなの前で歌えないって」

「甘いわね」

アイコはここで初めてコメットさんに目線を合わ
せます。そしてまた「仕事」に目線を戻し、


「親は親。子供は子供。突き放してるように見え
るかもしれないけど、可愛い子には旅をさせろっ
ていうでしょ。彼が自分で頑張ることをわたしは
期待してるの。わたしは、わたしの仕事を頑張る。
それでいいんじゃないかしら」


この一連のセリフでは仕事場風景のカットになり
ます。子供には意識が向いていないという意味を
強調しています。

「そんな…」

ここで再びコメットさんに視線を戻して微笑んだ
ところへ、


「先生、レセプションの時間です」
「もうちょっと待って」
「先生は先生お一人の身ではないのですから、皆
さんがお待ちです」


この名もないスタッフのこのセリフが駄目押しと
なります。


「そうね。いくわ。…あの子に伝えて。みんなの
王子様ならなおさら、自分のことだけ考えてるべ
きじゃないわ」
「…はい…」


アイコキミハラはイマシュンのことを思ってない
わけではないのです。「子供」ではなく、「大人」
として手本になることをきちんと言っています。
コメットさん☆』が3〜4才に甘く、一方で12
〜3才に厳しいと思えるのはこのようなシーンが
あるためなのです。

そして、イマシュンのライブ会場にはではラバボ
ーとラバピョンの「恋力」のせいで、ムークの策
略どおり、他人の恋の「輝き」を応援する(?)
ようになってしまったメテオさんが来ています。
メテオさんがムークの指示に従ってしまったのは、
まだ自分のイマシュンに対する思いと「王女メン
タリティ」との間で揺れてるからなのでしょう。

イマシュンが最初だけ甘えて、母親のために歌わ
せてくれと用意させたイス。これをメテオさんは
コメットさんのイスだと誤解します。

メテオさんの力でステージに上がってしまうコメ
ットさん。


「あの…あたし…お母さまの代わりです」
「母さんの?」
「伝言があって…あの…寂しい思いをさせてごめ
んなさいって」
「ははは、嘘が下手だな君は」
「…ごめんなさい。あ、でも、これはほんと、瞬
さんは、みんなの王子様だから、つらい顔をしち
ゃだめだって。お母さまも瞬さんと同じ、みんな
から期待されてる人だから」
「そうか…そうだよな…」


これを見ていたメテオさんはいい気持ちはしませ
ん。


「そうよ、二人っきりの世界に入っちゃうなんて、
やっぱり無しよ、なしなしなし!」


これはたんに、イマシュンとコメットさんがラブ
ラブになりそうなのが嫌だ、とも取れますが、微
妙に違います。「二人っきりの世界に入っちゃう」
というのは、メテオさんが自分で思い描いていた
シナリオどおりには展開していない、という意味
です。

自分は除け物にされている。結局いつものパター
ン、コメットさんにちょっかい出して、コメット
さんが解決しようとしていたことを自分が解決し
てしまう。それが嫌だと感じたと取れるのです。

「『映画的』ということ」(#10「物語性」と「演劇性」)
でも書きましたが、メテオさんのカメラ目線のカ
ットと、メテオさんがやろうとしていることから、
イマシュンとコメットさんが舞台上の役者、メテ
オさんが演出家の位置にいるとわかります。つま
り、メテオさんは舞台上の役者が自分の演出どお
りに動かなかったから、怒ったのです。


アイコキミハラもああは言ったものの、やはり人
の親です。イマシュンのことが気になります。仕
事場で座ることのなかったイスに座るカットと、
次のライブ会場に現れるカットがそれを示してい
ます。

そしてイマシュンは「みんなの王子様」であるこ
とを取り戻し、それはメテオさんにとっても「王
子様」であること=彼に対しての「思い」の自覚
へとつながります。具体的には、自分はイマシュ
ンの「歌」が好きだったことをメテオさんは発見
するのです。メテオさんの今回の「恋力」はコメ
ットさんのときと同じく、ラバボーによって発動
したものでしたが、今後発動する(?)メテオさ
ん独自の「恋力」=「歌力」の伏線となるものが
今回示されたことになります。


コメットさん☆』には脚本のおけやさんによる
絵本的な独特な語り口、神戸監督による実写指向
という魅力がありますが、それに加えて今回、演
劇的な意味での見どころが多い回だったように思
います。(2002/10/14記)