第38話『キモチの遭難』

■胸に伝わる「恋」の歌


イマシュンにお呼ばれして、盛り上がっているメ
テオさんはコメットさんにその嬉しさを押しつけ
てくる。そしてとうとうしつこいメテオさんに怒
鳴ってしまい、なぜ怒鳴ってしまったのか、戸惑
うコメットさん。それをスピカおばさまがやさし
く解説します。


「人にはね、恋人でも友達でも、好きな人を独り
占めにしたいっていう気持ちがあるの」
「ひとりじめ?」
「ええ」
「そんなのないよ」
「そう思う気持ちもあるわね。でも大切な人だっ
たら、独り占めにしたいって思うのも自然なこと
だわ。その人が自分から離れていったら、悲しく
なるのも自然なこと。そういうときはどうしたら
いいのかというと」
「いうと?」
「パーっと遊んでくることね、気持ちを真っ白に
して」
(略)
「悲しくなんかないけどなあ…でも遊んじゃおっ
と」


スピカおばさまは、コメットさんが初めて「恋力」
を手に入れた時、そしてこれからの「プラネット
王子編」(40・41話)でもそうですが、「恋」
をなかなか意識できないコメットさんにその意味
を教えます。

しかしコメットさんはこの作品の中での役割(み
んなの「輝き」を応援するという役割)上、誰か
を独り占めにして好きになったり、ということは
最後までありませんから、結局「恋」については
意識できないままです。とはいうものの、かすか
に「恋心」はあるらしい、という描写はそこここ
にあります。たとえば今回スピカおばさまの言う
とおり、冒頭で怒鳴ってしまうコメットさんのシ
ーンがそうらしい、と読めます。

一方、イマシュンを独り占めしたいメテオさんは、
彼に呼ばれて、


「歌って」
「は?」
「聴きたいんだ、君の歌」
「いきなりったら、いきなりだわ」
(略)
「ね」
「ね、って言われてもなあ」
「絶対いけるよ、彼女」


おそらく前回でメテオさんの歌の良さにイマシュ
ンは気づいたのでしょう。シビアなのはイマシュ
ンが好きなのはメテオさんの「歌」であって、メ
テオさん自体ではないということです。しかも何
故メテオさんの「歌」にこんなにも力があるのか
とういうと、メテオさんはイマシュンの「歌」が
好きだった、と合理化しながらも、やはりイマシ
ュン自体に恋心を抱いているわけで、それが「恋
力」→「歌力」となっているためです。

メテオさんの「恋力」が彼女の「歌」に力を与え
ている。それは吹雪のなか遭難したコメットさん
を助けるほどの力を持つ。その力をイマシュンは
感じ取っている。


「不思議だな、君の歌。上手とか
下手だとかじゃなくって、君の歌
には何か訴える力があるって感じ
るんだ」
「だって、それはわたくしがあな
たの『歌』に恋しているからです
わ」
「『歌』に『恋』か…素敵だね。
じゃ君の歌う『歌』には『恋』の
力がそなわっているんだ」
「『恋力』ですわ」
「この歌、歌ってくれるかな。できたら、君の
友達にも聞かせてあげてほしい」
「ももも、もち、もち、もちろんですわったらも
ちろんですわ」
(略)
「メテオさん…」
「あなたは聞きたくなかったでしょうけど、歌っ
てしまったわ。いまの歌、瞬さまがわたく
しのために作ってくれた歌ですのよ、
オホホホ、オホホホ」
「ありがとう、メテオさん」
「え? ありがとうって、わたくしのため
の歌なのよ」
「うん、とっても素敵な歌だった。ありがとう。
それから、怒鳴ったりしてごめんなさい」


このあと、自分の「恋心」せいで心が揺
らぐことをコメットさんは「キモチの遭
難」だと合理化して、自分なりに納得します。
しかし、この直後のイマシュンの電話が、問題を
引き戻してしまうのです。
そして、メテオさんにとっても残酷なことに。


「もしもし」
「やあ、コメットさんかい?」
「あ…瞬さん」
「メテオさんの歌、聞いてくれたって?」
「あ、聞かせていただきました。とっても素敵な
歌でした」
「あの歌…本当は君にプレゼントしよ
うと思って作った歌なんだ」
「え?」
「あ…いや、いつも助けてもらってたお礼に、メ
テオさんに歌ってもらったけど、気持ちは、
そうだから」
「…」
「…コメットさん、聞いてるかい?」


(2002/10/27記)