最終話「飛翔」

この作品のテーマは、良くも悪くも含めて、「パートナー同士の情愛関係」といっていい。人間同士の情愛、親子、恋人、兄弟(姉弟)。そしてブレンやグランチャーと人間との情愛、パートナーの関係。であるならば、結論としては、オルファンが、かつて太古の昔にもう一人のオルファン(恋人だったのかもしれない)に捨てられたのなら、人類がそのパートナーの代わりになるしかない。オルファンは銀河の果てにいる?かつての恋人?を夢想するかもしれないが、オルファンに滅ぼされるかもしれないと感じる人類も黙ってはいない。それに、オルファンに反発していたブレンが人間たちと良好なパートーナーになったり、宇都宮比瑪という人間にコンタクトしてみて、オルファンの中にためらいが生まれたのかもしれない。
自分を捨てたかつてのパートナーが、再び「情愛」をくれるとは限らない。それこそ夢物語かもしれない。この地球の生命体と人類とともに生きていくという考えは、オルファンの中ですでにおぼろげにあったのかもしれない。

カントは「ビープレートというものはオルファンの欲しがるオーガニック的な何かではないか」というが、それこそ「情愛」そのものである。
カントのその言葉を聞いた比瑪は比瑪らしくストレートに、
「ならさ、見せつけてやりゃいいのよ!」と言う。

この言葉がすべてのきっかけになった。
ベタではあるが、人間たちは手を握り合い、ブレンたちも手をつなぐ。オルファン内部では直子が娘の翠を叱りながら、情愛を娘にきちんと教え切れなかったことを詫びる。
その極端な、息子に対する情愛から自壊していったバロンの正体をしったジョナサンは自分のすべての感情をぶつけるが、オルファンが自分と母親のやったことを認めてくれたことを知る。

あとはもうダメ押しである。残されたのは勇と依衣子の姉弟の関係。

比瑪は自信を持って勇を送り出す。
「オルファンさん、私の一番大切なひとをあげるのよ。あたしの愛しているひとなんだから。寂しくないでしょ!」
この言葉でもうすべては終わったようなものだ。

フィギュア化した依衣子のもとで勇は、すべてをやり直そうと言う。姉と、オルファンの両方に。そして、自分たちがオルファンのパートナーの代わりになるから、許してくれないかと。オルファンは依衣子をあっさりと勇のもとに返す。

地上に戻った比瑪にネリーが語りかける。
ごきげんよう、比瑪ちゃん」
勇と比瑪の「姉」とも言える女性。ネリーの姿は一瞬で消え、代わりにそこには勇を乗せたネリーブレンの姿があった。ネリーがちゃんと、比瑪のもとへ勇を送り届けてくれたのだ。

オルファン内部にいた人間たちをチャクラ光で包んで地上に送り届けたあと、
その巨大なオルファンという存在は、地球の衛星軌道上に寄り添うようにあった。

ブレンパワードでは、エモーショナルなものを志向したのだが、
その呼称ゆえに誤解を孕んでしまった。
が、事象というものは、しばしばこのように現れるという暗喩ではある。


富野由悠季

小説「ブレンパワード」1巻冒頭。