電脳コイル9巻

電脳コイル9 (トクマ・ノベルズEdge)電脳コイル9 (トクマ・ノベルズEdge)

徳間書店 2009-09-16
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電脳コイル|磯光雄監督作品 - 小説『電脳コイル』 三番目のユウコ通信
この9巻からやっと、秋冬編。劇中の季節に合わせた発売なのかどうなのか分かりませんが、いや、夏編が長かった。ほんとに長かった(笑)。そもそも各キャラの心情、感情描写に重きを置いた書き方をしてるので、その分、展開そのものはそんなに進展してるわけではないのに、読者の体感時間としてはやたら長く感じた。ってか、実際巻数多いわけだし。

そんなわけで、今巻は終盤に向けて、前半、各キャラが今までの展開を振り返り、やりとりがあり、後半に入っても、新たな事件が起こったりするものの、今までの展開の反復に近かったり、そこからそれぞれの事件に共通の黒幕がいるらしい、と分かってくるので、要するに「これまでのあらすじ」的に前巻の8巻までの展開のコンパクトな説明にもなっていて、毎巻発売ごとに読んではいるけれど、そんなに読み返してはいないので、ディテールを忘れてる読者にとっては実に親切でありがたい巻ではある(笑)。まあ、各キャラを充分に掘り下げた分、事件や出来事に対して各キャラがどう思っているか、どういうスタンスをとるのかがはっきりしてる分、より分かりやすい、これからの展開に向けての復習にもなっていたとも言えなくもない。いい意味でね。

枯れ木や雑草を掻き分けて神社への道をのぼりながら、あたしはだんだん愉快な気持ちになっていた。そしてやっとわかった。なんで信者たちがごくふつうの小学生にもどったのか、なぜあたしの言いなりだったナメッチが、いつのまにかあたしとタメ口をきけるようになったのか。

《メガネ》が切れる日が近づいてるからじゃないだろうか。

あたしたちにとって《メガネ》はずっと無限の可能性だった。望んだもの、願ったものにどれだけ近づけるか、そのための絶対的なツールであり、従順で正確な相棒だった。けれどもその有効期限が近づいたいま、あたしたちは《メガネ》でできる最後のことを強く意識するようになった。だれかに仕返しをしたり、だれかにこびを売ったり、そんなムダなことをしてるひまはなくなったのだ。《メガネ》が効くうちに、ひとつでもふたつでも、自分にしかできないなにかをなしとげたい。

8年前《メガネ》のイベントで気を失った子供たちは、意識をとりもどしたあと、そのときの記憶を失っていたけれど、今回はそんなことはないような気がした。みんなしっかり、なにもかもを覚えているにちがいない。

今回の終盤近くのイサコの心情だけれども、この電脳コイル「小説版」のキモに、やっとたどり着きつつあるか、という感じです。

追記。
小説『電脳コイル』 三番目のユウコ通信 vol.15
http://www.tokuma.co.jp/coil/novel/15.html