第41話『タンバリン星国の誰かさん』

■「プラネット王子編」後編/コメットさんのやり方


景太郎パパの説得にきちんと受け答えするものの、
なかなか煮え切らない「ケースケ」であるところ
のプラネット王子。画面には景太郎パパだけを見
せ、王子は「声」だけ、という演出が彼の心の
「曇り」を表現。つまり、王子は景太郎パパの言
葉を受け止められないから、彼の姿は見せない。
しかし、返答はするわけだから、王子は自分でも
何とかしたいと思っている。
部屋の外で待つ、コメットさん、ツヨシくん、ネ
ネちゃん。


「いまね、景太郎パパとケースケが、二人っきり
で、男同士の話し合いをしてるの」
「おとこどうし?」
「そのほうが話しやすいこともあるんだって。コ
メットさんは、入れないから今は待ちビトさん」
「しょうがねえなあ」
「なにが?」
「おれもいってくっか」
「ネネちゃんもいくよ」
「だからおとこどうしのはなしあいだっていって
んだろ。おんなはまってな」
「やあなかんじぃ」
「やあなかんじぃ。こどももだめだって。おれを
こどもあつかいすんなっつうの」


3〜4才であるツヨシくんは、こうして12〜3才の
ドラマから閉め出されます。そして「男同士」、
これが今回の後半の伏線になります。

景太郎パパからバトンタッチし、コメットさんは
自分が地球で出会ってきた「輝き」を王子に見せ
る。

保育園。
園児たちといっしょに粘土あそびをする、コメッ
トさんと王子。粘土あそびの先生は鹿島さん。
30話『星力で粘土あそび』で見た、「命」の「輝
き」。
6話『お店に置くもの』で見た、鹿島さんの「何
か」を作り出す「輝き」。
そこから、コメットさんの話は広がり、
8話『素敵なドレスづくり』で見た、前島優衣さ
んの服を作る「輝き」。
13話『ヌイビトたちの夜』で見た、医者や看護婦
の服の持つ「輝き」。
保育園の有希先生の「まとめる」輝きと園児たち
の「助ける」輝き。

粘土が足りないと、泣く源ちゃんにぶっきらぼう
だが自分の粘土を与える王子。


「意外と悪いやつじゃないみたいだぼ」
「うん…」
「わかってくれた?」
「わかったからって、俺が子供になれるかよ」
「そうだね。次に案内するね」

子供になれるかよ。
25話『学校の輝き』の批判。

コメットさんの「輝き案内」は続く。
他人の「輝き」を別の他人に紹介したいという、
沙也加ママの「輝き」。
そして、
「スポーツする人とそれを応援する人。がんばっ
てる人には『輝き』があるよね。その『輝き』を
見たくて、一生懸命応援する人がいるの。今度は、
一生懸命応援してくれる人の『輝き』を受けて、
スポーツする人も、またがんばれるの」
まさに「『輝き』の循環」。
「それから、海の事故から、『命』を守ろうとす
る人の『輝き』。あ…いまはいないけど」
浜辺の誰も座っていない監視台。ケースケの不在。


「…いつ、気づいた?」
「あのときかな。ケースケが泳げないわけないも
ん」
『こんな真似しやがって、馬鹿野郎』

「…ケースケの言い方と違った…タンバリン星国
の…誰かさん」
「俺は…」
「そろそろ正体を現わした方がいいぼ」
「この姿じゃ…だめか?」
「ううん。『ケースケ』でいいよ。もし本当にケ
ースケが落ち込んで帰ってきた時の練習になる」
「フ…お前のところにいれば、『輝き』を見つけ
られるって、ミラとカロンから報告を受けた。あ
あ…俺は瞳に『輝き』のない奴さ」
「や〜っぱり王子さまじゃないんだぼ」
ほんとうはそうは言ってほしくない。

イマシュンとメテオさんのスタジオ。
「歌」の「輝き」。
みんなに「輝き」を与える、「みんなの王子様」
であるイマシュン。そして、「歌力」としての
「恋力」を持つメテオさん。(ここで、コメット
さんのことを気にするイマシュンについては次回
分で書きます)


「彼女は、あの歌手が好きなんだな」
「え?…さあ…」
「で、お前は俺の事が好き」
「ええっ!?」
「な、なに言ってるんだぼ」
「俺って言っても、『ケースケ』って奴だ。よー
くわかったよ」
「誤解だぼ、思い過ごしだぼ」
「こんなに夢中になって、俺の『輝き探し』に協
力してくれて」
「わたしはただ、わたしが出会った『輝き』が、
あなたのヒントになれば…って」
「俺がタンバリン星国の者だからって隠そうとし
ても無駄だ。わかる。かわいそうにな…我が星国
の王子は。ふられちまったわけか…」

「…降りて。あなたが…自分で探して。あたしが
いなくても、あなた一人で見つけられるはず。地
球には、まだまだいっぱい『輝き』があるから…」

自分は「輝き」の話をしているのに、このひとは
「好きか嫌いか」の話にスライドしてくる。

一方王子は純粋無垢に他人の「輝き」を応援する
コメットさんのような人間の存在を信じられない。
だから「好きか嫌いか」で理解しようとする。自
分の「輝き探し」に夢中になるのも、俺のことを
考えているんじゃない。俺が「ケースケ」って奴
の姿をしていて、コメットはその「ケースケ」が
好きだからだ。そうやってどこまでも卑屈になる。
コメットさんはそれに敏感だ。

ラバボーから降りる王子。
過去に何度、こうやって自分のもとから人が去っ
ていったことだろう。


「なんかくやしい。どうして好きとか嫌
いとか、そんなふうになっちゃう
の? そんなつもりじゃないのに。
王子様なんて関係ないのに」
「トライアングル星雲の未来がかかってる問題だ
ぼ。姫様が王子様をふったら、大変なことだぼ」
「そんなの、大人の人たちが勝手に決めたことだ
もん!」 


コメットさんはスピカおばさまのところに逃げる。


「トライアングル星雲の未来のことも心配だけど、
会ったこともない王子様のこと好きになれるわけ
ないし、嫌いっていうのもないし…ああ、わたし
なんだかわかんなくなっちゃった」
「メテオさんもお姫様だし、コメットもお姫様。
それには違いないものねえ」
「うん」
「星の子たちのことも心配だけど、地球で出会っ
た『輝き』も素敵。でも、今はたんに男の子と女
の子の問題っていうことだと思うなあ」

スピカおばさまは一貫して、コメットさんに「恋
心」を気づかせようとする立場。

「そのタンバリン星国の彼、ちょっとやきもち焼
いたんじゃないかなあ」
「やきもち?」
「うん。コメットがケースケ君のことを想ってい
るように見えて、メテオさんも瞬さんといっしょ
にいて「輝き」見つけて、寂しくなってしまった
のかも。自分には何もないって」

しかし、コメットさんは決して自分の「恋心」に
近づこうとはしません。だから、思考が迂回しま
す。男女の関係が駄目なら、どうしたらいいのか。

「わたしが男の子だったら良かったのかな…そし
たら彼の『輝き探し』も、ススッと進んだのかな」
「…そうね」
「あっ! そうだ! 男の子だったら、きっと大
丈夫!」
「え?」


コメットさんは何も変わりません。
この突飛な考えこそが、コメットさんの「輝き」
だからです。そして冒頭の「男同士」の伏線が、
見事に生きることになります。

さらに、これは、過去に景太郎パパの言葉ややり
方にヒントを得て、コメットさんが物事に対処し
てきたパターンのくり返しにすぎません。

たとえば、13話『ヌイビトたちの夜』で景太郎パ
パとの会話をヒントに看護婦になってケースケを
看病したり、33話『時には王女のように』で正装
した景太郎パパをヒントにしたり。
だからこそ、今回はシリーズの集大成とも言える
のです。


ヌイビトたちの力を借り、「男の子」になったコ
メットさん。ミラとカロン、メテオさんと合流し、
タンバリン星国のカゲビトから、タンバリン星国
の誰かさんがプラネット王子殿下であることを知
ります。

星国に連れて帰されそうになる王子を探すコメッ
トさん。星国の時と同じく、肩を王子とぶつけ合
う。


「はっ、殿下!」
「…お前か?」
コメットさん、うなずく。
「なんて格好してるんだ」
「男同士、腹を割って話し合おう
と思ってさ」
「プッ…なんてやつだ」


コメットさんが「男の子」になったこと、「男同
士」で話し合おうということが直接、王子の問題
を解決するのではありません。王子にとってはコ
メットさんが「男」になろうと関係がありません。
そうではなく、腹を割って話すためにわざわざ
「男の子」になってきたという、その発想そのも
のが、王子の心を揺さぶったのです。王子を笑わ
せたその意外性。メテオさんの強引さや、「輝き」
や「成長」の押しつけでもなく、この「突拍子
もなさ」こそが王子の心を開かせるきっかけ
となります。


これがコメットさんのやり方です。


しかし、心を開き始めた王子はコメットさんに甘
えて愚痴る。


「ああ…星力か。うっとうしくってさあ」
「うっとうしい?」
「ああ。俺に期待してんだろ。力を貸してくれる
代わりに、俺に星国の未来を背負えとかって。そ
んなこと、たまたま王家に生まれただけで、俺に
は関係ないのにさ」
「それはしょうがないことだぼ」
「『瞳に輝きを宿す者』。みんなが俺の事をそう
呼んだ。『輝き』は星の子たちの希望だなんて、
やってられるか?」
「やってられるかって…」
「俺は、作られた王子だよ。それに加えてあのパ
ーティ。ハモニカ星国か、カスタネット星国の王
女の、どちらかを選んで結婚しろだなんて、たま
んないだろ?」
「あ…わたし…じゃなくて、僕もそれは思った」
「だから地球に逃げ出したのさ。けど、こっちの
暮らしもきつくて、すぐに星国に帰ったんだけど
な」
「…へえ…」
「地球は素敵なところです、コメット様とメテオ
様も素敵な人ですって、ミラとカロンが報告した
から」
「また戻されて来たのかぼ?」
「王子としての『輝き』を、お前たちに探しても
らえって。とくに、お前はやさしくしてくれるか
らって。なのに、お前にもメテオにも好きな奴が
いて、俺はふられちまった。みっともないから、
今度はまた戻れだと。ふざけた話さ」
「ふざけてるよ」
「だろ?」
「違うよ。ふざけてるのはあなたの方だよ」
「なに?」

コメットさん、王子の胸ぐらつかむ。

「みんなが想ってるのに、それにちっとも応えよ
うとしないなんて、そんなの駄目だよ」

王子、泣きそうになる。

「最低だって言いたいんだろ」

握りこぶしを上げるコメットさん。

「殴るのか」
「ああ…いまは僕は『男』だから」
「姫様…」
「いいぞ、殴ってくれ。どうした、早く殴れよ」

相手は「ケースケ」の姿をしている。
自分では避けてきた「恋心」を刺激してくる。
だからコメットさんは殴れない。だから「男の子」
の変身が解ける。

「お願いだから…『ケースケ』の顔でそこにいな
いで…」

「殴っても…もらえないか…」

殴ってもらえた方がどんなによかったか。
あそこで殴ってもらえたら、自分は卑屈な言葉を
吐きながら、ずっとコメットさんに甘え続けてい
られる。
でもそれではいけないのもわかっている。
わかっていながら、どうにもならない自分がいる。


「でも、俺だって考えたんだ。このまま星国に帰
っていいものかって。お前が見せてくれた、いく
つかの『輝き』。まだたくさんあるっていう、地
球の『輝き』が、俺を変えてくれるような気がし
て…」


王子は侍従長のへンゲリーノの力で本当の姿を見
せる。


「なにか…なにか言って。本物のケースケ…」


(2002/11/16記)

参考:http://d.hatena.ne.jp/tobofu/20060913(コメント欄)

蛇足。今更だけど、「ホスト部」については、実質、環が主人公だったから、藤岡のハルヒに関してはかなり印象が薄くなりました。涼宮のハルヒ(アニメ版)については、今年の「らきすた」を経て(京アニの、ある意味「顧客満足度優先」主義みたいなのが個人的にわかったので)、ようやく肯定してもいいんじゃないかと、思うようになりましたけどね。そもそも原作は最初から否定してなかったけど、当時あれだけ騒がれちゃねえ、反発心も出てくるっての(笑)。作品そのものについてではなくて、何ていうの?「(肯定でもアンチでも同じだけど)同調を強制しようとする圧力(抑圧)」に対する反発? 今思うとそういうものに対しての苛立ちがあったような。例の「時かけ」についても同じ文脈です。