第34話『星の絆』

■姫様ほったらかし罪


これまでこの「かいせき」で、脚本などにミスが
あるように見えても、解釈の仕様によっては納得
できるという方向で書いてきましたが、シリーズ
中唯一、今回の34話は解釈でフォローしきれない
点がある回です。その意味で唯一の失敗作と考え
ています。

まず前半のラバボーがタンバリン星国の策略で
「姫様ほったらかし罪」として裁かれるシーン。

これは、なかなかわかりにくいのですが、シリー
ズ全体を見通してから考えるとラバボーとツキビ
トを入れ替え、コメットさんを操ってプラネット
王子とくっつけようという魂胆のためにしくんだ
ことだと解釈できます。

41話の王子の、「お前のところにいれば輝きを見
つけられるってミラとカロンから報告を受けた」
というセリフから考えて、タンバリン星国に戻っ
たミラとカロンの報告により、王子の相手はコメ
ットさんのほうが良いだろう、とタンバリンの議
会は考えたのでしょう。だから、最初はラバボー
の代わりにツキビトをコメットさんの側につけさ
せ、彼女のほうから王子のもとへ向かわせるよう
にしようとした。この時点で失踪した王子は星国
に戻っていると思われます(41話のセリフから)。

しかし、今回その入れ替え作戦が失敗した。だか
らしかたがないので今度はツキビトをお供にプラ
ネット王子を再び地球に送り、彼のほうからコメ
ットさんに近づくように仕向けた。

このような流れだと思います。ですから今回のラ
ストのヘンゲリーノとツキビトとのあいだの意味
深なシーンもそういう背景のもとだと考えること
が出来ます。

ちなみに「ツキビト」はお供、「付き人」という
意味と、プラネット王子やミラ、カロンなどよう
に、「自分では輝けない」=太陽の光を受けない
と輝けない「月」という二つの意味が掛かったい
いネーミングだと思います。

「姫様ほったらかし罪」はこのように解釈できる
ので問題はないと言えますが、問題があると考え
られるのは主に以下の2つです。


■メテオさんほったらかし罪


これは去年の放送時に気になったことですが、今
回の中村憲由さんのコンテ上の問題です。まず一
つはコメットさんの前にツキビトちゃんが初めて
現れる公園シーンのメテオさんです。

画面のなかにずっと映っているわりにほとんど止
めの絵で黙ったままなので(多少のつっこみゼリ
フはありますが)「ほったらかし」な感じがあり
ます。メテオさんらしくないのです(様子をうか
がっている、というふうにも受け取れますが、ち
ょっと「止め」が長いです)。

これは描写としてはミスではありません。ミスの
範疇には入らない、という言い方をしておきます
が、確かに何度か観直していくうちに気にならな
くはなります。ですが『コメットさん☆』という
作品ではこういう細かい描写が大事にされている
という印象が強いので違和感が感じられるのです。
また、同じくメテオさんでラストシーンも画面の
なかに入ったまま(小さく)「ほったらか」され
ています。公園シーンは許容できますがこのラス
トは今観ても違和感があります。

このメテオさん絡みのシーンを直すとしたら、公
園シーンは、カットを割るなり、アングル変える
などして、メテオさんはその場にはいるんだけど、
画面にはあまり入れずに視聴者の意識をコメット
さんに集中させる。あるいは画面に入れるのであ
れば、せめて「目パチ」(まばたき)をさせるな
どの処理をしてほしかったです。

「目パチ」というのは単純でありながら、そのキ
ャラが「生きている」ことを示す大事な手法です。
これを逆手に取ったのが押井監督の『攻殻機動隊
で、サイボーグの主人公の「非人間性」を表すた
めに、「目パチ」をまったくさせてない、という
のは有名な話です。「目パチ」をさせないと、人
間的でない、人形のような、意識がない、などの
表現になってしまうのです。

ラストシーンのメテオさんについてはこれは画面
から外すのがいいでしょう。


■ツバメ問題


次に、脚本、コンテ両方に絡む問題です。
後半でツヨシくんネネちゃんを迎えに行くコメッ
トさんが江ノ電に乗った直後、

「あれ、あれ? あれれ?」

と後部車両の窓から外を見て驚くシーン。

これはそのあとのシーンから傷ついたツバメに気
づいたらしいとわかるのですが、コメットさんの
視線がホーム側に向いてないので、何度見ても乗
る電車の方向を間違えたとしか見えません。これ
はコンテのミスといっていいと思います。不親切
だからです。ツバメそのものは見せなくても、ツ
バメがいるらしいとわかる方向にコメットさんの
顔を向けてほしいのです。

ただ問題なのはその前提となるケガをしたツバメ
という要素自体です。ここは脚本の問題です。
「ツバメ」という要素の入れ方が唐突で強引です。

今回テーマ的にはコメットさんとラバボー、メテ
オさんとムークとの「絆」ということになります
が、これにさらにケースケとコメットさんとの
「絆」を繋げるために「ツバメ」要素は用意され
たのだと考えられます(あと、強いて言えば裁判
中で言われるようにコメットさんの優しさを表す
ために)。しかし実際はうまく消化できずかなり
詰め込みすぎという感じがします。

おけや脚本特有の言葉の「連想」で繋げるやり方
として見ても、うまく繋がっていません。そして
それはコンテの細部にも影響していて、たとえば
ツヨシくんネネちゃんとコメットさんが帰りの電
車に乗っているシーンでコメットさんは落ちつか
ず、駅に着いたとたんコメットさんは飛び出して
ツヨシくんネネちゃんはわけもわからず引っぱり
回される感じがあります。ここは部分的な描写と
しては正しいのですが上で書いたようにコメット
さんがツバメを発見する「前フリ」が上手く処理
されていないこともあって、全体から見ると唐突
な印象を受けます。

また、メテオさんとムークとの「絆」が元に戻る
シーン。ツヨシくんネネちゃんが思い出したよう
に「ツバメはー?」と言ったり、コメットさんが
ラバボーに恋力を貸してほしいとお願いするとき
もラバボーは御丁寧に「ええ? そんな急に言わ
れても」と言い、それに対してコメットさんがラ
バボーとラバピョンの「絆」がどうとか言いくる
める(?)ところや、ツバメを群れに帰すために
メテオさんも星力を使ってくれと、コメットさん
ツヨシくんネネちゃん三人がお願いするところも
かなり「おざなり」感があります。

つまり、コメットさん、メテオさんとツバメとの
「絆」はあまりリンクしていない。ツヨシくんネ
ネちゃんが時々思い出したようにツバメのことを
気にすることで強引に繋がっている。

こうしたディテール描写での違和感などのもとを
辿れば、「ツバメ」の要素を強引に入れたため、
というのがわかってきます。(2002/09/29記)