第11話『バトンの力』

単独エピソードとしては、シリーズ前半一番の傑
作です。
演出は佐土原武之氏。
佐土原さんの演出/コンテというと、どうもコメ
ットさんとケースケとの触れ合い(距離の取り方
の)描写が多いという印象ですが、今回の明日香
とキヨッチのように他のキャラに関しても、キャ
ラ同士の微妙な気持ちのやりとりを描くのがうま
い人だと思います。


■輝きの「循環」


今回は脚本構成にも無理がなく、すばらしい出来
です。
お互い「輝き」を与えあう、明日香とキヨッチの
関係をいわば「補助線」とし、前々回あたりから
お互いを意識しながら、うまく気持ちをコントロ
ールできないコメットさんとケースケとの関係を
少しだけ前進させ、コメットさんの星国での役割
にまで敷衍する構成。
画的には後半のキヨッチの試合シーン、
キヨッチを見守る明日香、の二人をさらに見
守るコメットさん、という構図が象徴的です。

今回はいいセリフもたくさんあります。
抜き出してみましょう。

「バトンにはみんなを元気にする力があるって、
信じる?」

「あたしも気合い入れて応援するからさ、ホーム
ラン、絶対見せてよね。キヨッチのホームラン
はあたしの元気のもと」
「やめてくれよ」

「でも、彼はみんなから期待されて大変なの」
「…姫様のようですな。だから彼のことも応援し
たくなったのですかな?」
「…あたし?」
「姫様もハモニカ星国みんなの期待を背負って
おいでです。みな一刻もはやく、タンバリン星
国の殿下と結ばれることを祈っております」
「なんだか、プレッシャー」
「しかし、星の子たちの願いは、姫様が姫様らし
くあられることであります」
「あたしらしく?」
「どなたにもおやさしい姫様を、星の子たちは
みなお慕いもうしあげております。姫様にはこ
のひとが好きとか、あのひとが嫌いと
かはないでしょう。姫様はみんなのこ
とが好きでしょう?」
「うん」

「じゃあ、おまえのバトンはおれの元気のもとだ
よな」


「輝き」を持つ人と、その人の「輝き」を受
けて「輝く」人。そして後者の「輝き」によ
って前者はさらに輝く。その「循環」。

お悩み解決ビトとコメットさんとの会話も、ホー
ムランが打てない云々のシーンではボケどうしの
やりとりといった感じ(笑)ですが、一転して、
球場では実に深い会話で、この作品の本質を突い
ているような気がします。
コメットさんがさりげなく流してしまうのでなか
なか気になりませんが、

『みんなの期待を背負っておいでです』と、
『姫様が姫様らしくあられることであります』

というのは、良く考えると矛盾するわけです。
矛盾することを、コメットさんに期待している。
生真面目に受け取ってしまうと、かなりきついセ
リフです。

前にも書きましたが、この点がシリーズ後半のメ
インテーマになります。

あと、今回が唯一の挿入歌、千葉紗子版『ミラ
クルパワー』の絶妙な入り方も忘れてはなりま
せん(笑


■初夏の季節感


季節感については前回も触れましたが、今回も印
象的です。
特に、雲がよく流れていました。
画的に一番良いのは、冒頭のケースケとのシーン
で強い日ざしのもと、アオリで左に海岸沿いの
街灯、それをはさんで、二羽のトンビ(?)が
旋回し、入道雲が左下から右上に向けて街灯のラ
インに沿って動き、右から飛行機が左上に向かっ
て入ってくる、というカットです。

何でもないようなカットに見えますが、とても立
体的で、個人的には好きです。
(2002/05/12記)