第5話『ゆっくり王国づくり』

■藤吉家の「ファンタジー」、その実践


2話で景太郎パパが自分の家族のことを「王国」
と呼ぼうとしていること、それは「現実」を「フ
ァンタジー」化させようというセリフだと書きま
した。そして、家族間の「ファンタジー」な「関
係」を維持させようというのが、「藤吉家王国憲
法」という「ルール」でした。今回の5話の「農
園づくり」は「王国づくり」、その「ファンタジ
ー」の実践です。

とはいっても、景太郎パパは「ファンタジー」は
「ファンタジー」だと思っています。それは次の
やりとりでわかります。

裏山の畑へ向かう、景太郎パパとツヨシくんネネ
ちゃんそしてコメットさん。その道中で、

「聞こえないかい、生き物たちの声が…」

そう言われて、耳をすますと「声」が聞こえてし
まうコメットさん、しかし、当の景太郎パパは、

「…な〜んて、聞こえるわけないか。でも、聞こ
えるような気がするだろ?」

この「ズレ」です。「輝き」をそのまま感じてし
まう人間と、「輝き」を感じられないけれど、
「ある」と信じようとする人間の違い。「輝き」
が感じられるような「世界」を大事にしたいと願
っている人間。「ファンタジー」は「ファンタジ
ー」だとわかっているけれど、「それ」に近づき
たいと思ってる人間。

景太郎パパはそういう人間です。

そしてこういう人間に出会わなければ、コメット
さんははっきりいって地球での生活は無理だった
はずです。

あまりにも無垢、純粋すぎるからです。
それは1話で充分に描かれたし、今回も、畑の作
物の収穫を星力で速めようとします。
このことで直接、パパはコメットさんを叱ること
はありません。ツヨシ、ネネとパパとのやりとり
を見てコメットさんは自分で察するのです。さら
にこのあと、さりげなく重要なパターンが今回初
めて現われます。

畑をもとに戻そうとするコメットさんですが、星
力がありません。しかたがなく、星力なしでなん
とかしよう、ということになりますが、すでにメ
テオさんによって、畑はもとに戻されています。

メテオさんがコメットさんの邪魔をしようとして、
結果的に助けてしまうことになる。これがコメッ
トさんとメテオさんの関係の一つのパターンとし
て以後定着するわけですが、これは、コメットさ
んを「成長」させない作劇パターンでもあるので
す。

「成長」させるのであれば、一人で畑をなんとか
する、という描写が必要だからです。

やはり、コメットさんを「無垢」のまま維持する
ために、藤吉家を中心とする環境に彼女は庇護さ
れている。そのことで「嘘」を「嘘」として楽し
む「世界」が成立している。前回の「藤吉家に出
会ってからは『世間』はコメットさんに甘い」と
いうのは、そういう意味です。

これはただ「日常の再発見」だけをテーマとする
作品なら問題はなかったのですが。


■「ファンタジー」としての「鎌倉」


この「藤吉家を中心とする世界」を支えているの
が「鎌倉」という舞台です。綿密な鎌倉ロケハン
については他のファンサイトの方々に譲るとして、
「リアル」でありながら、「ファンタジー」でも
ありうる、という「舞台」として、「鎌倉」は最
適だったと感じます。この舞台であれば、景太郎
パパのいわば「浮き世離れ」した物言い、行動も、
ギリギリのところで「絵空事」にならずにすんで
いる、と言えます。(2002/03/24記)