第19話『もう一人のコメット』

■コメットさんは「我慢」をしていたのか


「…おばさま」
「どうしたの?」
「なんだかうれしくって。ネネちゃんやツヨシく
んのパパやママも、とってもよくしてくれて、毎
日が楽しくって、新鮮で、この地球という星も好
きになって」
「でも、いっぱい我慢したこともあ
ったのかな?」
「…え?」
「これから私に言って何でも。一人で背負い込ま
ないで。つらい時は私を頼って。同じ星に私がい
ることを思い出して」
「おばさま!…ありがとう、おばさま。いっぱい
わがまま言っちゃいます」


乙女座のスピカ、地球名「柊美穂」さんは実写シ
リーズからのつながりを考えれば「2代目コメッ
トさん」ですから、コメットさん(3代目)の気
持ちがわかるのでしょう。
コメットさんのほうも、そう言われて初めて「我
慢していたんだ、つらかったんだ」という自分の
「気持ち」に気づいた、と読めます。
それは、いままで「言葉」として意識出来なかっ
た「気持ち」を、スピカおばさまという「もう一
人のコメット」に「言葉」にしてもらった(自分
の「気持ち」を客観視することができた)から、
思わず涙してしまう、ということです。

今回の画面どおり受け取ればそういうことになり
ます。しかし、問題なのは「コメットさんはは
たして我慢をしていたのか」ということです。

前回書いたようにコメットさんの中で、「3〜4
歳」部分と「12〜3歳」部分がつながることな
く同居していて、いきなり「3〜4歳」から「12
〜3歳」にジャンプしたりする。そのことはコメ
ットさんの大雑把さ、突飛な部分という性格描写
として、納得できなくもないのですが、それゆえ
に、「我慢」、「無理」をしていた、とは思えな
い。
1〜2話では、初めての地球でいきなり疎外され
て、やっと藤吉家に受け入れられて、というきち
んとした流れがあるものの、3話以降、今回まで
「無理」をして悩むという描写はほとんどありま
せん。
しいて言えば、例の16話がそれに相当するわけで
すがこの時も、「12〜3歳」から「3〜4歳」
また「12〜3歳」へと「ジャンプ」するので、
「つらさ」を伴うほど「無理」をしているように
は見えません。

つまり、ここで「我慢」していたとすると、大雑
把な行為などが「フリ」だった、ということにな
るからです。
年齢レベルが「ジャンプ」する、それが「コメッ
トさんらしさ」、という3話以降で見せてきたも
のをまたここでひっくり返してしまう。

なぜそうなるのか。

「僕、途中まで書いていて言われたのが、この子
は我慢してるんじゃないか、というようなこと。
それはとても言われたんですよね。だから、そう
いうふうに見えるんだろうと思って、途中のスピ
カおばさまが出てくる回で解放させてあげようと」

これはDVDブックレットのおけや氏のコメントで
すが、視聴者には、コメットさんが「我慢」して
いるように見えてしまう「隙」があったというこ
とです。
コメットさんは自分で「星の妖精」と言ってるく
らいだから、「悩まない」キャラとして押し通す
ことも出来たはずです。しかしそうはならなかっ
た。
1〜2話でおそらく神戸監督の意向による「リア
ル演出」描写をシリーズの頭に置いてしまったた
め、3話以降の「ジャンプ」する性格ではおかし
い、と観ている側に思わせてしまった。これを、
「整合性」をとろうとして「ジャンプ」する性格
をリアルに解釈すると、
「無理」して、「我慢」してそうしている、
という見方になってしまう。
今回はさらに、視聴者側がそうやっていままで補
完していたことを本編が確定してしまうという結
果になってしまったのです。

また、やっかいなのは今回、このような「確定」
があったために、コメットさんも、視聴者側が納
得できる(一時的なのですが)、人間的な部分を
持っているんだ、と思わせてしまったこと。
「妖精」または「天使」みたいな存在を、「身近
な存在」と感じられるような描写をしてしまった
ことです。

これでいっそう、作劇上のミスと思われる点がコ
メットさんの「魅力」として吸収されてしまうと
いう傾向が強まります。
言いかえれば、作劇上の方向性ー「リアル志向と
童話的語り口」や「3〜4歳」と「12〜3歳」
ドラマの両立、におけるミス、穴を「後付け」で
修正していきながら、物語が進んでいき、さらに
そのこと自体が『コメットさん☆』という作品の
「作風」も決定づけ、奇跡的に良いまとまり方に
なってしまったように見えてしまう。

おけや脚本がいきあたりばったりで書いているよ
うに見える、その理由は以上のように説明できる
と思います。


■中村演出、長森作監の見どころ


今回は演出/コンテ、中村憲由、作監長森佳容
ということで考えると、落ちついたシーンが多い
せいか「らしくない」という感じがするかもしれ
ませんが、細かく見ていくと、キャラが、必ず肩
を動かしながらしゃべる、などの独特の動きのパ
ターンが発見できます。
アニメージュぶるまほげろー氏による中村さん
のインタビューで、
「昔の東映長編映画や『トムとジェリー』とかの
カートゥーン的ノリを加えた感じのものをめざし
てます」
とありましたが、その意味で今回のヒットは、
「丸いから止まらない〜」と、
ラバボーとムークが坂道を転げ落ちるところでし
ょう。しかも2回くり返す(1回目はムークのみ)、
というのも、お約束で、古典的なカートゥーン
たいなシーンです。他の担当作品、『HAPPY☆L
ESSON』でもそうですが観ているだけで楽しい、
というのがこのコンビの魅力です。

神戸、佐士原さんの「間芝居」にひけを取らない
ほど、『コメットさん☆』という作品の雰囲気づ
くりに貢献していると言っても過言ではないでし
ょう。(2002/06/22記)

http://www.youtube.com/watch?v=LOtOjuDQVRk
http://www.youtube.com/watch?v=s_fSxs3aaaw